Teatown’s blog - Art Room

アートと建築関連のつぶやき

レクチャー「マリノ・マリーニの魅力」@石橋財団アートリサーチセンター

今日は、石橋財団アートリサーチセンター(ARC)で行われた「マリノ・マリーニの魅力」というレクチャーを受けて来ました。マリノ・マリーニはイタリアを代表する彫刻家で、現在アーティゾン美術館の特集コーナーで展示されています。
このARCというのはアーティゾン美術館の研究部門で、2015年に設立されたようです。町田市の多摩境の駅から20分ほど歩いたところにあります。研究センターが全然京橋ではなくて町田にあったというのにまずは驚きました。多摩境駅は初めて降りましたが、駅前はほぼ何もなく、そこから幹線道路沿いにショッピングセンターの郊外店が並んでいるような新興住宅街で、コストコがあるので有名なところですね。20分ほど歩いてくとARCがありますが、さすが美術館の研究部門ということで、裏手の尾根緑道を借景として、緑の中にシンプルなデザインの建物がありました。こういうオフィスはいいですね。
レクチャーは、マリノ・マリーニの作品の変遷とともに人柄にも踏み込んだ内容で、作風と人間性を知る大変良い機会となりました。マリノといえば、馬の上に騎手が乗っている「馬と騎手」の彫刻で有名ですが、アーティゾン美術館では、所蔵している約70点のほとんどが版画だそうです。「馬と騎手」のモチーフは彼の代表的なものなので、彫刻でも絵でもそういうものが多いようです。最初は騎手がちゃんと乗っているのですが、第二次世界大戦後スイスからイタリアに戻ってからは、ほぼ落馬しそうな体勢ながら奇跡的に踏みとどまっているという作風に変わったそうで、恐らく何か極限で奇跡的に破綻を免れているというようなことの暗示で、自身の戦争の体験からのメッセージを込めたのだろうとのことです。晩年の作風では、明るく軽やかなダンスの絵を描くように変わっていったとのことです。彼は、ミラノのブレラ美術学校の教授なのですが、学校ではあまり教えてない(来てなかった)という説と週半分は来てちゃんと教えていたというのがあるそうです。最初は結構いい加減な性格かという話だったのですが、学生への面倒見は良かったようです。日本人の若手彫刻家がマリノの地中海のアトリエで製作を手伝った際の記録の紹介もあり、朝は7時頃から制作に取り掛かり、夕方気が乗らない時はさっさと作業を切り上げるとか、朝食はシンプルだが、お昼は料理人が来てしっかりしたものを作ってもらって食べたりするとか、日々の様子を想像できるものでした。彼を知るほぼ全員が一致するのは、彼はとても良い人だということのようです。当時、ヘンリー・ムーアと同じくらい人柄が良いという噂だったそうです。
マリノ・マリーニの彫刻は、ベネツィアペギー・グッゲンハイム美術館の入り口にあるそうなので、将来行く機会があれば、是非見てみたいものです。この彫刻には逸話があるのですが、ここには書くのを止めておきます。日本では、彼の彫刻作品が竹橋の国立近代美術館の庭にあり無料で見られるようです。でも、その「馬と騎手」はかなり抽象化されているバージョンなので、ちょっと分かりにくい感じです。