Teatown’s blog - Art Room

アートと建築関連のつぶやき

デイヴィッド・ホックニー展@東京都現代美術館

今日は、東京都現代美術館で行われている「デイヴィッド・ホックニー展」へ行ってきました。
David Hockneyの独特なタッチの絵には、現実をデコレートした不思議な世界感を感じました。
 
写真のコラージュ(e.g. 龍安寺)も面白かったです。コラージュってそもそも多視点からの再構築がしやすいので、これって写真によるセザンヌ様式の実現とも言えるのかもと思いました。
 
展示は3階と1階ですが、1階は写真撮影OKになっているのが嬉しいところ。

The Arrival of Spring in Woldgate, East Yorkshire in 2011
 
一番最後のノルマンディーの12ヶ月は大きな空間に大パノラマが展開されていて、圧巻でした。

ノルマンディーの12ヶ月(最初のあたり)

ノルマンディーの12ヶ月(中盤)
このノルマンディーの12ヶ月の色々な部分の写真を撮っているうちに、これって、自分の観点で好きな部分を切り取って一枚の絵画にしている工程なんだなと思って、楽しくなりました。とても面白い体験でした。

ノルマンディーの12ヶ月の一部

ノルマンディーの12ヶ月の一部

ノルマンディーの12ヶ月の一部

ノルマンディーの12ヶ月の一部
 

芸術x力 ボストン美術館展 @ 東京都美術館

東京都美術館で開催中の「芸術x力 ボストン美術館展」に行ってきました。

www.ntv.co.jp

この展覧会は2020年に計画されていたものが二年越しにやっと実現したそうです。

目玉は、日本にあれば国宝間違いなしという二つの絵巻物「平治物語絵巻」と「吉備大臣入唐絵巻」です。平治物語絵巻」では、炎の描写や武者などの表現をじっくり鑑賞しました。井戸に女御が身を投げたというのも描かれてます。「吉備大臣入唐絵巻」では、空を飛んで試験の内容を聞きに行くというズルをするところを描いてあったりなかなかユーモラスな内容です。それから大火で焼けた御所から避難した仮御所から再建した御所へ戻る大行列を描いた「寛政内裏遷幸図屏風」も見応えありますね。

皇帝ナポレオンの最初の皇妃ジョゼフィーヌのために作られた食器セットも素晴らしかったです。マージョリー・メリウェザー・ポストのエメラルドのブローチは、大きさと装飾に圧倒されます。その他にも色々なジャンルの美術品が展示されていて、ボストン美術館の所蔵品の凄さを感じました。

ところで、グッズ売り場には二年前に作ってしまった図録(2020年版)も売っていました。コロナ禍の苦労の跡を垣間見た気がします。

自然と人のダイアローグ展@国立西洋美術館


今年リニューアルオープンした国立西洋美術館の最初の展覧会「自然と人のダイアローグ展」がそろそろ終わりそうということに気がついて、急遽行ってきました。

nature2022.jp

この展覧会は、ドイツのフォルクヴァング美術館と西洋美術館の所蔵品をテーマに合わせて併置するという企画になっています。双方、よいものを持っているなと思いました。中でも、ポール・シニャックの2点とテオ・ファン・レイセルベルへの「メールの月光」はなかなか気に入りました。(点描画好きだからですが。)あと、ゴッホの「刈り入れ」ですかね。

ちなみに、この展覧会は、一部を除き写真撮影OKというのは良いなと思いました。海外の美術館は大抵写真撮影OKなので、それに合わせたということだと嬉しいです。

ところで、国立西洋美術館はリニューアルで前庭が大きく変わりました。以前は結構樹木が鬱蒼としてましたが、一切なくなり、彫刻以外はなくすっきりとした空間になってました。世界文化遺産に登録された際に、ル・コルビュジエの設計当時の意図が損なわれているという批判があったので、元の形に戻したということのようです。

国立西洋美術館の前庭 建物をバックにして

国立西洋美術館の前庭 彫刻と建物



浮世絵風景画展@町田国際版画美術館

今日は町田市立国際版画美術館で行われている「浮世絵風景画展 広重・清親・巴水 三世代の眼」展に行ってきました。

江戸の歌川広重、明治の小林清親、大正・昭和の川瀬巴水というそれぞれの時代を代表する絵師の風景版画を一堂に鑑賞することができる貴重な美術展でした。川瀬巴水の版画は横浜美術館でも今まで結構見ていたのですが、今回、広重、清親と一緒に見ることができるのはとても良い体験でした。

hanga-museum.jp

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町田国際版画美術館1Fのポスター

最初のコーナーは、同じ場所を描いた3人の風景版画を並べて鑑賞できる空間で、それぞれの作者の味わいを感じることができます。そんな中で、やはり、巴水の夜景と雪景色の質感に圧倒されました。

次の広重コーナーでなるほどと思ったのは、「東海道五十三次之内」時代では横の構図だったのが、江戸後期に風景版画を冊子形態で売るようになってからは、流通の観点で便利な縦の構図が用いられるようになり、そこで遠近感を出すため、手前に近景のものを大きく書いて背後に遠景を描くという手法が工夫されたそうです。確かに「名所江戸百景」を見るとそういう構図のものが多いです。例えば、ゴッホも模写したというので有名な以下の「亀戸梅屋舗」はまさにそういう構図ですね。

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名所江戸百景 亀戸梅屋舗 (作:歌川広重)

小林清親の風景版画は明治の風情が感じられます。江戸と西洋が共存しているような黎明期の息吹を感じますね。現存していない建物など、興味深いです。そんな清親も晩年は、広重風の江戸の風景画に回帰していったようです。

さて、最後は川瀬巴水のコーナーです。個人的に大変好きなのですが、これだけまとめて見られて大変満足しました。上でも書いたのですが、やはり、巴水の静謐な夜景・雪景色に見入ってしましました。巴水は旅行が好きだったようで、日本全国と朝鮮の風景をたくさん風景版画に残しています。素晴らしいものだらけだったのですが、個人的には「佐渡夷港」「秋田八郎潟」「平泉中尊寺金色堂」あたりがお気に入りです。

ところで、川瀬巴水といえば、Steve Jobsも好きでコレクションしていたというのが話題ですね。

www3.nhk.or.jp

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広重、清親、巴水という三巨匠の風景版画を堪能できるとても良い美術展でした。図録も購入しましたが、なかなか良い資料だと思います。

 

イサム・ノグチ発見の道@東京都美術館

今日は都内に出る用事があったので、ついでに久々に美術館へ寄ってきました。東京都美術館で開催されている「イサム・ノグチ展」です。

isamunoguchi.exhibit.jp

イサム・ノグチは札幌市民にはモエレ沼とか大通り公園にある黒い滑り台(Black Slide Mantra)などで有名ですが、これだけまとめて見ることができるのは貴重な機会ですね。3つの展示部屋のうち最初の二つが撮影可であるのも嬉しいポイントでした。

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黒い太陽
最後のコーナーには石の彫刻が多数置かれています。一つの石に様々な加工を施して多様な表面テクスチャを引き出し元の自然な表面と融合させているのが素晴らしいです。ほんと、これ、一つの同じ石なのに、こんなにも色々な表情があるんだなぁと感心しました。
香川県高松市牟礼町にあるイサム・ノグチ庭園美術館にも是非行ってみたくなりました。

「#映える風景を探して」展@町田市立国際版画美術館

今日は、町田市立国際版画美術館でやっている「#映える風景を探して 古代ローマから世紀末パリまで」という展覧会に行って来ました。

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実はこれ前から行こうと思ってたのですが、先月の緊急事態宣言で軒並み美術館・博物館が閉鎖されて、すっかり忘れてました。ちょうど今週やっていた「ぶらぶら美術・博物館」で町田特集があって、思い出したわけです。

www.bs4.jp

このタイトルにもなっている「映える風景」と言うのは、18世紀に始まったPicturesqueという概念だというのがこの展覧会の趣旨なんですね。Picturesqueな風景を求めてスケッチをするのが当時の流行りだったようで、スケッチに夢中で川に落ちるとか、当時すでにそういう風刺画があったようです。Instagramに載せる目的で写真を撮る現在の風潮も、18世紀のPicturesqueの焼き直しと見ると面白いですね。

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Picturesqueな風景に夢中な人を風刺する挿絵

版画美術館だけに、展示品はほぼ版画です。ぶら美でも取り上げられていたレンブラントの「三本の木」ですが、右下に人の形があるのをなんとか確認できました。これは、言われないと分からないくらい微妙に刷り込まれてます。当時の版画は、今で言う写真の役割で、記録の意味があったのですね。そういう観点で、ナポレオンのエジプト遠征の後に出版された「エジプト誌」の版画による記録は素晴らしいものでした。多色刷りのは特にですが、稠密なドットからなる壁面の様子など近寄って見てみると感動を覚えました。

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エジプト誌

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エジプト誌

あと、パリ万博の時に作られたエッフェル塔とその周辺の会場の鳥瞰図も興味深いものでした。

最後のコーナーでは、写真が使われて記録の地位を脅かされた版画ですが、むしろ世界をそのまま撮しとる写真ではなく、作家のフィルターを通して記録できる版画を見直そうと言う腐食銅版画家協会の活動が紹介されていました。時代に応じて意味合いを変えて来た西洋版画の歴史が窺い知れる展覧会だと思います。

レクチャー「マリノ・マリーニの魅力」@石橋財団アートリサーチセンター

今日は、石橋財団アートリサーチセンター(ARC)で行われた「マリノ・マリーニの魅力」というレクチャーを受けて来ました。マリノ・マリーニはイタリアを代表する彫刻家で、現在アーティゾン美術館の特集コーナーで展示されています。
このARCというのはアーティゾン美術館の研究部門で、2015年に設立されたようです。町田市の多摩境の駅から20分ほど歩いたところにあります。研究センターが全然京橋ではなくて町田にあったというのにまずは驚きました。多摩境駅は初めて降りましたが、駅前はほぼ何もなく、そこから幹線道路沿いにショッピングセンターの郊外店が並んでいるような新興住宅街で、コストコがあるので有名なところですね。20分ほど歩いてくとARCがありますが、さすが美術館の研究部門ということで、裏手の尾根緑道を借景として、緑の中にシンプルなデザインの建物がありました。こういうオフィスはいいですね。
レクチャーは、マリノ・マリーニの作品の変遷とともに人柄にも踏み込んだ内容で、作風と人間性を知る大変良い機会となりました。マリノといえば、馬の上に騎手が乗っている「馬と騎手」の彫刻で有名ですが、アーティゾン美術館では、所蔵している約70点のほとんどが版画だそうです。「馬と騎手」のモチーフは彼の代表的なものなので、彫刻でも絵でもそういうものが多いようです。最初は騎手がちゃんと乗っているのですが、第二次世界大戦後スイスからイタリアに戻ってからは、ほぼ落馬しそうな体勢ながら奇跡的に踏みとどまっているという作風に変わったそうで、恐らく何か極限で奇跡的に破綻を免れているというようなことの暗示で、自身の戦争の体験からのメッセージを込めたのだろうとのことです。晩年の作風では、明るく軽やかなダンスの絵を描くように変わっていったとのことです。彼は、ミラノのブレラ美術学校の教授なのですが、学校ではあまり教えてない(来てなかった)という説と週半分は来てちゃんと教えていたというのがあるそうです。最初は結構いい加減な性格かという話だったのですが、学生への面倒見は良かったようです。日本人の若手彫刻家がマリノの地中海のアトリエで製作を手伝った際の記録の紹介もあり、朝は7時頃から制作に取り掛かり、夕方気が乗らない時はさっさと作業を切り上げるとか、朝食はシンプルだが、お昼は料理人が来てしっかりしたものを作ってもらって食べたりするとか、日々の様子を想像できるものでした。彼を知るほぼ全員が一致するのは、彼はとても良い人だということのようです。当時、ヘンリー・ムーアと同じくらい人柄が良いという噂だったそうです。
マリノ・マリーニの彫刻は、ベネツィアペギー・グッゲンハイム美術館の入り口にあるそうなので、将来行く機会があれば、是非見てみたいものです。この彫刻には逸話があるのですが、ここには書くのを止めておきます。日本では、彼の彫刻作品が竹橋の国立近代美術館の庭にあり無料で見られるようです。でも、その「馬と騎手」はかなり抽象化されているバージョンなので、ちょっと分かりにくい感じです。